ムーン・リヴァー [物語詩]
ムーン・リヴァー
店にムーン・リヴァーが流れていた
悲しくはなかったはずなのに
ひとしずくほど涙が出たいといいはった
風が一瞬砂を舞い上げ渦巻いて消えた
街路樹が灯りを点す時間だと
点灯夫に教えるのが枝仕草で伝わる
ムーン・リヴァーの曲が終わりかけたとき
ちょうどくわえ煙草の点灯夫が
赤い電灯箱のスウイッチを押したので
一斉に街路樹の灯りが点った
点灯夫が枝ぶりのいい樹に
今度一杯やろうぜと声を掛けた後
潤んだ川の流れる橋の上から
月に挨拶をして帰る姿を眺めた
昔の映画を見た後の切ない感情が甦る
古い曲に沁みついた郷愁と月と街灯は
色と悲しみが似ている
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